オンラインスクール事業の失敗経験と5つの教訓:費用の見積もり・集客と販売促進・カリキュラムの規模
私たちクラレボは、「オンラインスクール制作サービス」をご提供しており、オンラインでの資格教室や研修講座など、様々なオンラインスクールの制作を手掛けています。しかし、オンラインスクール事業の失敗を、これまで一度も経験してこなかったわけではありません。成功の裏には失敗の積み重ねがあります。そうした私たちの失敗体験と、そこから得た教訓を、今回は皆様に共有したいと思います。
1:費用の見積り - オンラインスクール制作は「サクっと」できない
まず、私たちの経験したもっとも大きな失敗は、予算規模の過小評価です。その頃の私たちは、オンラインスクール制作に掛かる様々な業務と、そこに必要なコストを見誤っていました。
現代のインターネットには、たくさんの動画コンテンツが無料で公開されています。こうしたものに慣れすぎてしまっていたことも遠因でしょうか。私たちは、動画コンテンツを「かんたんに作れるもの」だと誤解していました。
スマートフォンで動画を撮って、ちょっと字幕を付けてアップロードするだけだと。
しかし実際にやってみてわかったことは、無料のYoutube公開版ですら、誰も見てくれないということです。まして、事業として成功させるためには、その動画を有料で販売しなければいけません。無料でも誰も見ないクオリティの動画に、お金を払う人はいません。その動画の中にどれほど有益な情報が含まれていたとしてもです。
教訓:プロジェクトの立ち上げ段階から、実務担当者の意見を取り入れる
この失敗から得た教訓は、「実際に教材制作などの作業をする実務担当者」の意見を、プロジェクトの立ち上げ段階から取り入れることです。
実務経験がなければ、何を作るのに、どのくらいの時間と予算が掛かるのか、適切な見積もりはできません。ネットで調べれば動画制作費の相場を調べることはできますが、たいていの場合、公開にされている見積はあてになりません。動画制作会社が、PRのためにあえて安すぎる価格を提示していることもあるでしょう。実際にはもっともっとたくさんの予算と時間が掛かります。
15分の動画のナレーションを収録するのに3時間も掛かるとは、一番最初の頃の私たちには想像できていませんでした。しかし実際には違いました。台本を確認し、シーンごとにカットし、言い淀んだり詰まったりしてしまったら、その部分を取り直します。収録したテイクをその都度、聞き直して、これで大丈夫か、取り直したほうが良いのか判断し、また次のシーンに進みます。時には収録しながら、台本の修正も行う必要があります。台本として書いたときは良いと思っても、言葉にして発声し、耳で聞いてみると、意味が取りにくい文章になっていることも多々ありました。
こうした実務の現実を知らないまま、「このぐらいでできるだろう」「相場でいいだろう」と、安易に工数と予算を見積もってしまえば、オンラインスクールが完成する前に資金が枯渇してしまいます。
2:集客と販売促進の難しさ - オリジナル・コンテンツ・ビジネスの特徴
予算と時間の過小評価といえば、集客と販売促進に関してもそうです。オンラインスクール事業は、オリジナルのコンテンツを販売するビジネスと言えます。他のどこにもないオリジナルの教材を、動画やPDFテキストといったコンテンツとして、販売するものです。
つまり、「モノ(商品)を仕入れてきて販売する」というビジネスとは、まったくモデルが違います。
モノ(商品)を仕入れて売るビジネスなら、「その商品を知っている人」「使っている人」「買いたい人」は、既に存在している状態のことが多いでしょう。ニーズが顕在化しており、市場がある状態です。その市場の中で、競合他社との競争をいかに勝ち抜いていくか、というのがビジネス課題になります。
しかしオンラインスクール事業の場合、他のどこにもないオリジナルのコンテンツを販売することになります。たとえば、私がWEBマーケティングのスクールを作るとしましょう。「WEBマーケティングを学びたい」という人は大勢います。「WEBマーケティングとは何か」を知っている人も大勢います。しかし、「私の作ったWEBマーケティングスクール」のことは、誰も知らないところから出発しなければいけません。「私の作ったWEBマーケティングスクール」は、どんなスクールなのか、何を学べるのか、講師はどんな人なのか、そういったことが一切知られていない状況からの出発です。
従って、まず「私のWEBマーケティングスクール」の需要を掘り起こし、「このスクールで学びたい」「このスクールにならお金を払って学ぶ価値がある」と考えてくれる人たちを集めなければいけません。
そこには通常より高いハードルがあり、必要となる予算と時間も想像以上になります。
教訓:十分な集客・販売促進の予算と時間を確保する
オンラインスクール事業の成功には、十分な集客・販売促進の予算と時間が必要です。ただスクールを作って公開するだけでは、受講生は集まりません。
無料の動画やテキストを公開したり、メールマガジンを配信したり、SNSやYoutubeで有益な情報を発信し、「この人の話ならお金と時間を払って聞いてみたい」と思ってくれる人を集めて、その先に有料コースの販売があります。そうした、自社のスクールや講師を信頼して、お金を払っても良いと考えてくれる人を増やすための施策に、スクールを制作する以上の時間と予算が発生します。
そのことを当初から見積もりに入れておかなければ、プロジェクトが途中で頓挫してしまう恐れがあるでしょう。
3:「無料セミナー」は敷居が高い:顧客が払うのは“お金”と”時間”
オンラインスクールの集客といえば、無料セミナーは非常に有効な手段の一つとされています。確かに、いわゆる「体験レッスン」のような形で、無料で受講できる授業は、必須の施策だと言えるでしょう。
しかし無料セミナーは、スクールを運営する側にとっては、直接の収益を生み出さない一方、参加する側にとっては、意外と敷居の高い施策になります。
オンラインの無料セミナーであっても、参加者は、その開催日時にわざわざ予定を開けて、申し込み手続きを行い、指定のURLにアクセスして、そして30分、1時間といった時間を費やす必要があります。
これが例えばYoutubeの無料動画を見るだけなら、自分の好きな時間に、5分~10分、15分など、隙間時間で気軽に閲覧できます。申し込みなども特に必要ありません。同じ無料だと言っても、Youtubeで無料動画を閲覧するのと、オンラインの無料セミナーに参加するのとでは、大きな違いがあります。
教訓:無料セミナーへの集客のために、さらに施策が必要になる
無料セミナーを集客の手段と捉えてしまうと、「無料セミナーを開催しても、だれも参加者が来ない」ということが生じます。無料セミナーは、有料コースの受講につなげるための”最後の一押し”としては有効ですが、そもそも自社のスクールや講師を知っており、興味を持っている人、魅力を感じている人、時間を費やして無料セミナーに参加したいと思ってくれる人を増やす施策をしなければ、無料セミナー自体が意味を成さなくなってしまいます。
4:最初から何十時間もあるカリキュラムを組むべきではない
これからオンラインスクールを始めようと考える方の多くは、最初から何十時間もあるカリキュラムを作成してしまいがちです。私たちもまさに、この失敗を経験しました。
なぜ最初から何十時間もの長大なカリキュラムを組もうとしてしまうのか。その理由はいくつもあります。
「充実したスクールにしないと、受講生が集まらないのではないか」
「自社のノウハウをしっかりと伝えるためには、手短にまとめることはできない」
「スクール事業の採算性を考えると、安い価格では販売できない。それなりの価格に見合ったカリキュラムにしなければ、ビジネスとして成立しない」
こうした判断から、長大なカリキュラムを作ってしまう失敗は、私たちの経験だけでなく、比較的よくある事例です。
しかし受講生の気持ちになって考えてみれば、これがいかに誤った判断かがわかります。何十時間ものカリキュラムを受講するのは、時間も労力も掛かります。気軽には受講できません。費用も何万円、何十万円となり、気軽に払える金額ではなくなってしまいます。
またもう一つ、スクールの運営上も課題になりがちです。たとえば、最初に10時間のカリキュラムを作った後、「カリキュラム自体をアップデートしたい」となった時に、修正すべき教材が大量に発生してしまいます。カリキュラムをコンパクトに作成していれば、こまめなアップデートもしやすくなりますが、長大なカリキュラムではアップデートも難しくなります。
教訓:「ほどよい値段」「ほどよい長さ」のカリキュラムから始める
カリキュラムは、「ほどよい値段」「ほどよい長さ」から始めるほうが良いでしょう。長すぎると弊害がありますが、かといって短か過ぎて中身の薄いカリキュラムになってしまっても、良いことはありません。
ある程度の価格が設定でき、受講生にとっても充実感の得られる長さで、かつ長すぎないバランスがどの程度の時間やボリュームになるかはケース・バイ・ケースですが、まずは1コース1時間程度からはじめてみると良いのではないでしょうか。
5:公式サイトの重要性 - どんなスクールなのかを伝える
オンラインスクールにとって、公式サイトは極めて重要です。受講を検討する人の多くは、公式サイトを見て申し込みの最終判断を行います。どれほど無料コンテンツを充実させ、無料セミナーを開催し、そこに多くの人が集まったとしても、いざ有料コースに申し込もうと公式サイトを開いた時、その中身が不十分であれば、申し込みを躊躇ってしまうでしょう。
オンラインスクールは、「受講してみるまで価値がわからない」という特性があります。有料コースで教える内容を、何もかも全て無料で公開してしまったら、誰も有料コースを申し込む人はいなくなります。かといって、シンプルなカリキュラムリストだけを見て、「これを受講しよう」と判断する人も多くはないでしょう。
教訓:スクールの世界観を公式サイトに落とし込む
オンラインスクールの公式サイトでは、スクールで学べることや、その価値や魅力が、受講する前でもしっかり伝わるものを制作する必要があります。スクールの世界観と言っても良いでしょう。
それらがしっかりと伝わるように、デザイン、文章、動画や体験レッスン(無料セミナー)の紹介、受講生の声など、充実した内容を盛り込むことが大切です。
まとめ:現実的で堅実なオンラインスクール事業のために
私たちが経験したオンラインスクール事業の失敗と、そこから学んだ教訓は、様々なものがあります。しかし、すべてにおいて共通して言えることは、現実的な事業プランをしっかりと見通して、地に足をつけて推進することの重要性に尽きます。
ただ教材を作って、販売サイトに掲載するだけでは、オンラインスクール事業は成功しません。
集客や販売促進のために何をすべきなのか。経費と時間がどのくらい必要なのか。
顧客は何を求めているのか。自分たちが「教えたいこと」ではなく、多くの人が「学びたいこと」は何なのか。
こういった現実をしっかりと把握し、想像と憶測ではなく、経験とデータに基づいて取り組むことが重要です。